お漏らし:蛙声小片集-
ショートショート・掌編・フラッシュストーリー・エッセイ

蛙声ASEI小片集

カテゴリ:04エッセイ

お漏らし

更新日:2025.12.02

文字数:996字

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小学二年生の時だった。クラスのホームルーム中に、我慢が出来ず、立ったままお漏らしをしてしまった子がいた。普段からあまり目立たない、どちらかと言えばおとなしい子だった。

結構な衝撃で、本人はもちろん、周りの子どもたちも、徐々にそれに気づくと、全体になんとも気まずい空気が流れた。僕が一瞬時が止まったように感じたくらいなので、その子にとっては永遠にも感じたのではないかと思う。

本人はそこに立ち尽くして、先生から指示を受けた子が何人かでバケツに水をくみ、モップを手に後片付けをした。

あそこで僕は、どういう行動を取るべきだったかと、その事が起こって随分と経ってから考えるようになった。その後も、ずーっと頭の片隅にあって、そして今でもこうやって思い出すのだ。

こうなるともはや、それは単なる事件ではなかった。その子の事件であると同時に、僕自身の身に起こった事件であった。

もっとその子に優しく声を掛けてあげるべきだったなとか、遠巻きに見るのではなく自ら率先して片付けに参加するべきだったなとか、大抵そういう考えを伴って思い出す。

でもいつもいつも、何かに辿り着かないような、堂々巡りの感覚に陥るのだ。そんな事はある意味当たり前の大人の感情で、考えないといけないのは、何か違うんじゃないかと。

文章を書くというのは面白いもので、こうやって文字にして感情を辿っていくと、自分の中に眠っていた何かが目を覚まし、勝手にそれを書き始めることがある。さあ、書いてみな。

あの時の事件をどう消化するべきなのか。

お前が あの事件を忘れられないのは、あの子のことが気になっているというよりも、自分に何か、後ろめたさを感じるからじゃないのか。そしてその後ろめたさ というのは、あの時だけではなくて、お前の人生で何度も起こっていたんじゃないのか。その度に、お前は目を背けてきたということはないか。

自分の中の他人が勝手に何かを話し始めた。そう、そういうことなのだ。あれがずっと気になっているというのは、自分の後ろめたさの裏返しだったのだ。だからモヤモヤするのだ。自分がいかに弱い人間であるかということを思い出すたびに、えぐられているような気分になっていたのだ。

そこには一瞬で溶けるような魔法はなくて、多分これからも一生抱え続けていく感情なのだと思う。

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