せんべい布団:蛙声小片集-
ショートショート・掌編・フラッシュストーリー・エッセイ

蛙声ASEI小片集

カテゴリ:01安

せんべい布団

更新日:2025.12.02

文字数:1344字

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座布団は少し得意げでした。

広いベランダの見晴らしの良い最高の場所で、

思う存分暖かな陽光を一身に受けていました。

「もう俺だけか」

ここに来た時は4枚1組の座布団でした。

この家の長男が生まれた時は

おくるみに包まれた赤ちゃんを載せて

一緒に写真に収まりました。

立派な金糸の房がついて、ふかふかの座布団に赤ちゃんを載せ、ご主人も奥さまも、とても満足そうでした。

家族で記念写真を撮るときも、

上等なお客様がきたときも、

僕らはいつも、大切な儀式の中心でありました。

あれは、お嬢さまのおねだりで、初めてこの家に犬がやってきたときのことです。

あの犬ときたら、この家に似つかわしくないほどやんちゃで、

いつも私たちの上に陣取りました。

「そこはお前が座るような場所じゃないんだよ」

何度言っても、どこ吹く風。

ご主人も諦めて、私たちの内の1枚は、犬専用となってしまいました。

しつけが始まる前の犬は、何度も何度も粗相(そそう)をいたしました。

そしてある日気づくと、大きなゴミ袋に入れられて、連れていかれてしまったのでした。

それっきり、僕らは3枚になりました。

そして、1枚はぼっちゃんが鍋敷きよろしく鍋をおいて焦がしてしまい、

1枚はまたあの犬です!思い出したくもありません。。

4枚揃って、この家の宝物のように扱われていた私たちは、

ついには私1枚となりました。

1枚ではなかなか使いようはありません。

それでも、ご主人専用の座布団として、毎日食卓の一番良い場所に陣取っていたことは、

唯一私の自尊心の支えでありました。

ただその頃にはもう、自慢の金の房々は抜け落ちて、ふくよかだった私はすっかりと痩せこけ、

まるでせんべい布団のようになっていました。

いや正確には、せんべい座布団と申し上げるべきでしょうか。

それでもご主人は、寝転ぶときには、2つ折りでむしろ便利だと、重用してくださったのでした。

おっと、昔語りが随分長くなってしまいました。

今日は久しぶりに、ベランダで干されながら、うららかな気持ちでそんなことを思い返していたのです。

たっぷりと陽を浴びて、すこし身体も若返り、はりも戻った気がします。

他にも新しい座布団が、私の横に並んでいましたが、

私はもっとも良い場所に干していただいたのです。

最初に、少し得意げと申し上げたのは、そういうわけでございました。

陽がおちて、少し寒くなってきました。

奥さまがあわてて、洗濯物を取り込みに出てきました。

そして私に手を当てながら、

「さすがにもう駄目ね。一番日が当たるとこにおいといたけど、あまり膨らまないわ。」

「そうか残念だけど、もう寿命かな。随分とお世話になったね。」

ご主人の声でした。

新しい座布団たちが、何やらヒソヒソと話しているように見えました。

ぽかぽかとあたたまった私の身体は、その余韻にひたりながら、おだやかに眠りにつきました。

作者より
この作品に関しては、AIの講評やコメントは、作者とかなり異なります。でもそれも一つの読み方なのだと思います。
AIの講評
座布団の視点から描かれる、家族の歴史とモノの生涯の物語。新品の「宝物」から、数々の試練を経て「せんべい座布団」となり、ついには寿命を迎えるまでの叙情的な描写が胸を打ちます。最期に「一番良い場所」で陽光を浴び、主人に労いの言葉をかけられながら穏やかに眠りにつく姿は、使い古されたモノが持つ尊厳と愛着を感じさせます。
読者の皆さんへ
・座布団は、家族のどんな時のことを「宝物」の思い出として覚えていると思いますか?
・座布団が「俺だけか」と思ったとき、どんな気持ちだったでしょう?
・あなたの家にも、たくさんの思い出が詰まっている大切なモノはありますか?
先生・保護者の方へ
この作品は、モノにも心があるかのような語りを通じて、子どもの感受性と「モノを大切にする心」を育むきっかけを与えてくれます。

モノと家族の歴史: 座布団の生涯は、家族の生活の移り変わり(長男の誕生、犬の来訪、子どもの成長)を静かに見守る歴史そのものです。使われなくなったモノにも、「思い出」というかけがえのない価値があることを、お子様と一緒に再確認する良い機会となります。

愛着と感謝: 最期に「ご主人の声」で労われ、暖かな眠りにつく座布団の姿は、役目を終えたモノへの「感謝の気持ち」を表しています。「さすがにもう駄目ね」「随分とお世話になったね」という言葉に込められた愛着の深さを、お子様に伝えてみてください。

消費社会と対極の価値: 常に新しいものに囲まれる現代において、使い古されてもなお「重用」され、最期まで尊厳を持って扱われた座布団の物語は、「持続可能な愛着」という価値観を教える示唆に富んでいます。

評価サマリー

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