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小学生の僕にとって強烈な一言だった。
「あなた達が死んだらお母さんも死ぬんですからね。」
兄弟3人を見据えながら、母は言った。
あまりに唐突な言葉に、むしろ普段にない距離を感じながら、
― ああ、この人は永遠に味方なんだな ―
半ば第三者的な視点でその言葉を受け取っていた。
おかげでというべきか、おかげじゃないというべきか、
僕ら3人には、ほとんど反抗期というものは訪れなかった。
マザコンという言葉があるように、母を愛する息子は多いのだろう。
僕らはその範疇に入る自覚はなかったが、世の常に倣い、
我が母親も、十分に子供たちを愛し、我々も十分に母を愛した。
月日は無情なもので、あっという間に母との別れはやってきた。
葬儀の前の晩、ぼくら3人は、安置所で一緒に夜を過ごした。
明日、母は焼かれて、永遠の別れとなるのだ。
納骨が終わり、母に先立たれた父は、すっかり意気消沈していた。
「かーさんはいつまでもいるもんだと思っていたのになあ。。」
「でもかーさんは死ぬ前によく言っていたよ。君らはかーさんの分身なのだからと。」
― カタン ―
心の奥で何かが転がる音がして、
子供の頃に聞いたあの言葉が、突然つながった気がした。
「あなた達が死んだらお母さんも死ぬんですからね。」
私の存在があるかぎり、母の死もないのだ。
何も悲しむ必要はなかった。
母はここにいた。