分身:蛙声小片集-
ショートショート・掌編・フラッシュストーリー・エッセイ

蛙声ASEI小片集

カテゴリ:01安

分身

更新日:2025.12.02

文字数:652字

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小学生の僕にとって強烈な一言だった。

「あなた達が死んだらお母さんも死ぬんですからね。」

兄弟3人を見据えながら、母は言った。

あまりに唐突な言葉に、むしろ普段にない距離を感じながら、

― ああ、この人は永遠に味方なんだな ―

半ば第三者的な視点でその言葉を受け取っていた。

おかげでというべきか、おかげじゃないというべきか、

僕ら3人には、ほとんど反抗期というものは訪れなかった。

マザコンという言葉があるように、母を愛する息子は多いのだろう。

僕らはその範疇に入る自覚はなかったが、世の常に倣い、

我が母親も、十分に子供たちを愛し、我々も十分に母を愛した。

月日は無情なもので、あっという間に母との別れはやってきた。

葬儀の前の晩、ぼくら3人は、安置所で一緒に夜を過ごした。

明日、母は焼かれて、永遠の別れとなるのだ。

納骨が終わり、母に先立たれた父は、すっかり意気消沈していた。

「かーさんはいつまでもいるもんだと思っていたのになあ。。」

「でもかーさんは死ぬ前によく言っていたよ。君らはかーさんの分身なのだからと。」

― カタン ―

心の奥で何かが転がる音がして、

子供の頃に聞いたあの言葉が、突然つながった気がした。

「あなた達が死んだらお母さんも死ぬんですからね。」

私の存在があるかぎり、母の死もないのだ。

何も悲しむ必要はなかった。

母はここにいた。

作者より
母の言葉はおそらく深く考え抜いた言葉というよりも、衝動的な言葉だったろうと思います。でもそれは母の心そのものであると強く印象に残りました。
AIの講評
母が子どもたちに言った「あなた達が死んだらお母さんも死ぬ」という強烈な言葉が、時を経て「君らはかーさんの分身」という深いメッセージへと昇華する物語。葬儀後に父の言葉で真意を悟る瞬間の「カタン」という音は、心のパズルのピースがはまる感動を伝えます。「私の存在がある限り、母の死もない」という結論は、命のつながり、そして永遠の愛を静かに、力強く示しています。
読者の皆さんへ
・お母さんが昔言った「あなたたちが死んだらお母さんも死ぬ」という言葉は、本当はどんな「メッセージ」だったと思いますか?
・「分身」とは、どういうことだと思いますか?
先生・保護者の方へ
この作品は、親が子に伝える「言葉の力」と、命の継承という普遍的なテーマを扱っています。

言葉の再解釈: 子ども時代に「唐突」に感じた言葉が、母の死後、「あなたは私そのものだから、あなたが生き続ける限り私は生きる」という愛情と生命のつながりの宣言であったと再解釈されます。愛情に裏打ちされた言葉には、子どもを包み、様々なメッセージとして届くことを示唆しています。

分身という愛の形: 親子を「分身」として捉える考え方は、子どもに「自分は愛されている」という揺るぎない自己肯定感を与えるとともに、「生きていくこと」が親の命をつなぐ行為であるという責任感と使命感を自然に育む可能性があります。

「あなた達がいる限り、私たちは死なない」というメッセージは、親の不安や「あなたを失いたくない」という切実な願いの裏返しでもありますが、同時に永遠の味方であることの証明でもあります。

お子様との対話を通じて、ご自身の親御さんから受け継いだものや、お子様に伝えたい「生きる力」について、改めて考えてみるきっかけにしていただければ幸いです。

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