褒め殺し:蛙声小片集-
ショートショート・掌編・フラッシュストーリー・エッセイ

蛙声ASEI小片集

カテゴリ:03由

褒め殺し

更新日:2025.12.02

文字数:1248字

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「いいかい 、これはどうですか と聞かれたら、すごいですね、素晴らしいです。

これが唯一の答えだ。

君の意見は不要だ。

とにかく 第一声は、素晴らしいです。これに尽きる。

でもその後も肝心だ。

ちょっとだけリアリティを持たせる必要がある。

何を聞かれても素晴らしいです、しか言わなければ今度は疑われてしまうんだ。

本当にそう思っているのかを。

ベストなのは相手がどこを褒めて欲しいのかを見抜いてそこを褒めちぎること。

もしそれができないなら

何でもいいから目についたものを何か 1点 褒めればいい。

とにかく褒めれば人はその気になる。

けなされると嫌な気分になる。

わざわざ落ち込むために君に聴いてるわけじゃないんだ。

じゃみんな、それを肝に命じて今日から頑張ってくれ。」

プロ経営者としてやってきた新社長の訓示で、ホメホメ化粧品の売上はみるみる伸びていった。

ただ、程なくして、会社は返品の山を、抱えた。

褒めてくれるのは営業マンだけで、他には誰も褒めてくれないというのだ。

それはそうだろう。ただの水なんだから。

化粧品なんかに頼らず、本当は中身を磨く努力をすべきだろう。

プロ経営者は、会社の形態を、化粧品から塾にシフトした。

子供を褒められた 親たちは、面白いほど 高額な 夏期講習を契約してくれた。

しかし、最初の卒業生が出て、合格実績を発表する頃には また経営が傾き始めた。

褒められても、勉強しなければ受かるわけがない。

いやむしろ褒められると、親は子を甘やかすのだ。

次は何だ。プロ経営者は頭をひねった。そうか、褒める方向が間違っていた。

そしてコンサルタント業に進出した。

業界2位の会社と契約して、業界1位の会社を骨抜きにするのだ。

やり方は簡単だ。とにかく 業界1位を褒めまくって、

従業員にはもっと ゆとりを持たせることで満足度が上がると吹聴しまくるのだ。

貴社はすでに業界を10年リードしていると。

おたくがNo.1です。

厳しすぎた研修も見直して、休みも多く取るべきです。

出版社からは賛美の本を出し、ライバル会社からは白旗を上げてもらった。

果たしてこの作戦は非常にうまくいった。

褒められて 慢心した 業界1位は、簡単にその地位を追われた。

一度慢心した会社は、なかなか這い上がれない。

褒めてもらえなくなると、なんとか自分で良いところを探し出して、自画自賛を繰り返すのだ。

そして、2位に抜かれ、3位に抜かれ、底なし沼の様相を呈した。

景気が良かった頃の過剰投資は、そのまま不良債権となった。

業界2位だった会社からは毎年コンサル料がたんまり入った。

この調子だとまだ50年は稼げそうである。

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