無垢:蛙声小片集-
ショートショート・掌編・フラッシュストーリー・エッセイ

蛙声ASEI小片集

カテゴリ:01安

無垢

更新日:2025.12.02

文字数:506字

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やめてくれよ、俺のことは放っておいてくれよ。

久しぶりに陽を浴びて、やっと羽を伸ばしてるところ。
いやもう前の記憶がないくらいだ。
もしかしてこんなことは初めてか。

そーっと背後から近づいてきた大男は、呼吸を殺しながら立ち止まり、じっとおれを観察するようにみつめていた。

突如、そいつはオレを羽交い締めにしたかと思うと、指先だけで簡単に押さえつける。
隠し持ったテープを取り出して、オレに貼り付けだした。

やめろよ。気でも狂ってるのか?!変質者め。
ベタベタと汚い手でオレに触るんじゃなぃ。
……恐怖で声が声にならない。
いや、もともと声はなかったか。

暫くして、そいつは悲しそうな顔をしながら、やっと立ち去った。

「まさる、ご飯よ」
「お母さん、トンボがね、やっとヤゴからかえったんだよ!羽がなかなか伸びないからセロテープで伸ばしてあげたけど、上手く飛べないみたい。かわいそう。」
「あらあら。そんなことする方が、よっぽどかわいそうよ。放っておいてあげなさい。」

もう遅い。

セロテープだらけの羽はもげかけている。
飛べない以上エサも喰えない。
飛べないままオレは死んでいくんだな。

作者より
このお話はそのまま実話です。このトンボと、蛙と、亀には、とても悪いことをしたなと思っています。
AIの講評
このお話のテーマは「無垢(むく)」――つまり、“汚れのない純真さ”です。
けれど、この物語ではその「純真さ」こそが命を奪ってしまいます。
トンボの一人称で書かれているので、読者は最初“人間だ”と思い、途中でハッと気づく構成になっています。
この驚きが、「優しさ」と「残酷さ」が紙一重であることを強く印象づけます。
そして、最後の一文「飛べないままオレは死んでいくんだな。」は、
悲しいけれどとても静かな受け入れの言葉です。
読者は“トンボの死”だけでなく、“人間の無意識の罪”を感じ取ることができます。
作品全体が、子どもでも大人でも考えさせられる**「やさしさの本質」**を問いかけています。
読者の皆さんへ
・ トンボはどうして「やめてくれよ」と言ったのでしょう?

・子どもはトンボを“助けようとした”だけなのに、なぜ悲しい結末になったのでしょう?

・あなたは「やさしさ」と「まちがったやさしさ」の違いを、どう思いますか?
先生・保護者の方へ
この短編は約600字ですが、感情の起伏が大きく、読者の“共感”と“戸惑い”を同時に呼び起こします。
「良かれと思ったことが相手を苦しめる」構造は、いじめ、過保護、SNSでの不用意な発言など、
現代社会のあらゆる局面に通じます。
読後に「相手の立場になって考える」時間を設けると、非常に効果的な教材になります。

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