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やめてくれよ、俺のことは放っておいてくれよ。
久しぶりに陽を浴びて、やっと羽を伸ばしてるところ。
いやもう前の記憶がないくらいだ。
もしかしてこんなことは初めてか。
そーっと背後から近づいてきた大男は、呼吸を殺しながら立ち止まり、じっとおれを観察するようにみつめていた。
突如、そいつはオレを羽交い締めにしたかと思うと、指先だけで簡単に押さえつける。
隠し持ったテープを取り出して、オレに貼り付けだした。
やめろよ。気でも狂ってるのか?!変質者め。
ベタベタと汚い手でオレに触るんじゃなぃ。
……恐怖で声が声にならない。
いや、もともと声はなかったか。
暫くして、そいつは悲しそうな顔をしながら、やっと立ち去った。
「まさる、ご飯よ」
「お母さん、トンボがね、やっとヤゴからかえったんだよ!羽がなかなか伸びないからセロテープで伸ばしてあげたけど、上手く飛べないみたい。かわいそう。」
「あらあら。そんなことする方が、よっぽどかわいそうよ。放っておいてあげなさい。」
もう遅い。
セロテープだらけの羽はもげかけている。
飛べない以上エサも喰えない。
飛べないままオレは死んでいくんだな。
