※Google日本語、Android端末などで、仕様上「一時停止」が効かない場合があります。
ついに来た。俺も理事長の座にまで上り詰めた。ここまで来るのにさほど時間はかからなかった。都内のそこそこの大学を卒業し、社内の選抜試験もクリアして、同期の中でも昇進スピードはかなり早かった。それでもやはり東大卒のトップティアの連中と、伍していくのはなかなか大変だった。時には企画部に乗り込み、役員の前で大声で喧嘩もした。
休日出勤、深夜勤務は日常茶飯でこなした。重要な会議の前には泊まり込み、経営戦略実現へのルートを緻密に描いた資料はわかりやすいと高評価で、今や自分が戦略の基盤を作っている位の思い入れも持った。
『もう、俺らが実際は中心だよな。俺らが考えれば、やりたいことは大抵実現できる。』
同期とはそんな話をしながら悦に入った。課長、次長と職階が上がるにつれて、給料も連動し、若くして一等地のマンションも手に入れた。
そして遂にそのときがやってきた。
『次の改選で、次期理事長は君に内定した。受けてくれるね?』
俺なんかに務まるのかとも思ったが、断る選択肢はなかった。
『はい。わかりました。』
理事長としての初の役員会を招集する。議題はトップシークレットだった。内容が外に漏れると、風評被害から多大なロスを生む危険性がある。
事前に内偵も済ませてある。この辺りは数々の企画や、修羅場をくぐり抜けてきた知恵と、自信が俺にはあった。
初の役員会は滞りなく終わりを迎えた。役員は女性が多い。男性は理事長である俺を含め数名だけだった。威厳を保ちながら、今期第1回役員会の終了を宣言する。
『それでは5階の雨漏りの件については、私の方から業者さんに連絡して、見積もりを取った後皆様にご連絡します。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。次の日曜日は、マンション前の一斉清掃になります。旦那様にも是非ご参加いただけるようお声かけください。』