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三本の矢、臥薪嘗胆、孟母三遷、偉人の言葉を、集まった子どもたちに解いては悦にいる御仁がいた。しかしこの男、説いていることは大変立派だが、いかんせん人徳がない。知識だけは豊富なのだが、教職に就こうにも、自身過剰な態度に全て断られる始末だった。
ある日「真実の太鼓」なるものを売りに来た行商人がいた。聞くと、真の心で叩けばそれはそれは澄んだ音がするという。よし、それなら子供らに聞かせて、悟りを開く大切さを教えるとしようと、一つ買い求めた。
ところがこの男がなんど真実の太鼓を叩いても、カラカラという音しかしない。
これだけ学を極めて、まことを追求してきたのにそのようなはずはないと何度も叩くが、カラカラとなるばかり。
なるほど これは、これを作った異国の地では、このカラカラという音が澄んだ美しい音とされているのだと合点した。
そして子供たちに、この太鼓は真実の太鼓と言って、まことの心を持つ物が叩けば、カラカラと乾いた良い音がする。お前たちもいつかこの音が出せるように精進せよと話した。
さて、興味を持った子供たちが、行商人の元へ行き、ぼくたちにも叩かせて欲しいとせがんだ。果たして叩いてみると、ポーンポーンと、非常に済んだ 良い音がした。
子どもたちがそれを男に告げると、男は、
耳を信じず目を疑い 心の声を聞け
さすれば一切の虚飾が剥がれ落ち
そこに残るのが真の声である
と謎めいた言葉で煙 に撒いた。
男の高慢な態度に辟易していた村人たちは、これは正に真実の太鼓だと、こぞって買い求めた。
すると、あるものは、ポーンポーンと澄んだ音を奏でることが出来、
あるものは、やはりカラカラと壊れたような音がする。
翌月、行商人が再び通りかかると、カラカラの音がした者はみな、精進が足りないのかと嘆いていた。
聞くと、家族にも恥ずかしく、せっかく求めた太鼓の音色を聞かせられずにいるという。
この太鼓、品質が悪く、元より様々な音がするのは当然であった。
行商人は早速、「私がお祓いをして信ぜましょう」と、元の金額と同じお金を徴収しながら、修理した。
するとたちまち、良い音色が響きわたり、村人たちは厄が落ちたと大変喜んだ。
行商人は大層なお金持ちになったそうな。
さて、最初に太鼓を求めた男は、あいもかわらずカラカラと音を無らしながら、悦にいっていたと言う。