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駅近くのガランとしたフリースペースに、高齢者を集めて男は言った。
僕はとっても怪しいものでございます。
僕がこれから皆さんを必ず騙しますので、騙されないようにしてみてください。これを読んでいる読者の方も、是非ここにお集まりの皆さんの一員になったつもりで、このお話に参加してみてください。もし私の話がまやかしであったら、皆様は入場料は払っておられませんが、入場料相当額をお返しいたしましょう。それくらい私には自信があるのです。
まずこのようにお話することで、皆さんは騙されまいと、身構えることになります。騙されると分かって、騙されるなんて、バカなことがあるものかと、そこまでボケてはいない。周りにたくさん人がいるし、安心できると。そして、もしそんなことがあるのであればどうやって騙されるのか、少し興味を持たれることでしょう。
しかし私のような一流の詐欺師にとって、そのように皆さんが、身構えれば身構えるほど、いともたやすく騙すことができるようになってしまうのです。
さて ここからが本題ですが、最初に一言だけ、これから皆さんは驚愕の事実を知らされることになりますが、ご自宅に戻られても 決して家族の方にその内容を話さないとお約束ください。奇術と同じで、種がばれてしまうとその話は、今後一切できなくなってしまいます。その点だけ何卒よろしくお願いします。了解していただける方は、挙手をお願いします。もしご賛同いただけない場合は、申し訳ありませんが、ご退席ください。
そう言って男は間を置くと、皆が手を上げるのを待ってから、おもむろに続けました。
さて、ありがとうございます。実は皆さんはもうすでに騙されています。そのような必ず騙せるというような方法は存在しません。つまりそのような話があるのかと半信半疑ながら手を挙げて、話を聞こうとした段階で、本題に入ると同時に騙されているわけです。大変ご苦労様でございます。
ただこの話は騙しではあっても、実質的には無害です。詐欺ではありません。ただ単に、なんだそういうことか、という程度のものであります。一体、それのどこが驚愕の事実なんだと、おっしゃることでしょう。
はい、そのように文句を言われるということは、またもやあなたは騙されていたということになります。騙されるということは信じるということですから、そのような話があると信じたからこそ、あなたは怒っているわけです。
え、ここで終わり?何だ、つまらないと思った読者の方。はい、それはもう騙されたわけでございます。
もし騙されてはいない、という方がおられましたら、どうぞ最初にお約束した、入場料相当額をお返し致します。ご返金は、貴方のクレジットカード口座に行いますので、こちらにカード情報を全てご記入の上お帰りいただき、あとは楽しみにお待ち下さい。